出典:青空文庫
・・・日常茶飯の世界のかなたに、常識では測り知り難い世界がありはしないかと思う事だけでも、その心は知らず知らず自然の表面の諸相の奥に隠れたある物への省察へ導かれるのである。 このような化け物教育は、少年時代のわれわれの科学知識に対する・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・この誤解は、その半面に、さっきもそれについて触れた些末的写実主義の潮流とより添って流れたために、当時作家達が所謂自由になってのびのびと書き始めた諸作品は、要するに低調な日常茶飯的身辺小説、主観的な私小説の域を遠く出ることが出来なかったのであ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ クニッペルに書かれたいろいろ日常茶飯のこと、チェホフが愛情の濃やかさから書いたそれらの日常茶飯の描写に、我々は彼の短篇の種々なモーティヴの潜在を感じる。 南方の九月のヤルタ、天気がよいのに雨が降ってくる。長くしなしなして、ちょっと・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ 岩ばかりの峡谷の間から、かすかに、目に立たず流れ出し、忍耐づよく時とともにその流域をひろげ、初めは日常茶飯の話題しかなかったものが、いつしか文化・文学の諸問題から世界情勢についての観測までを互に語り合う健やかな知識と情感との綯い合わさ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・男に岩野泡鳴はいたが、女にはそういう作家も出ず、自然主義の後期にそれが文学の上では日常茶飯の、やや瑣末主義的描写に陥った頃、リアリスティックな筆致で日常を描く一二の婦人作家を出したにすぎない。このことにも、日本の社会の特徴が、男と女とにどう・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」