出典:青空文庫
・・・観客はカメラとなって自由自在に空中を飛行しながら生きた美しい人間で作られたそうして千変万化する万華鏡模様を高空から見おろしたり、あるいは黒びろうどに白銀で縫い箔したような生きたギリシア人形模様を壁面にながめたりする。それが実に呼吸をつく間も・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・実におそらく最も不自由な場合であるが、面白いことには、学者によってはこの狭い天地の中でさも愉快そうに自由自在に活動して立派な成果を収めて人を驚かすことがあるようである。一皿の水を化して大海とするのである。 政府の所属で、各種科学の特殊な・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・もしわれわれ人間にこの半分の能力があれば、銀座の四つ角で自動車電車の行き違う間を、巡査やシグナルの助けを借りずとも自由自在に通過することができるにちがいない。しかし人間にはシグナルがあり法律があり道徳があるために鳥獣の敏活さがなくても安心し・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・もし吾々人間にこの半分の能力があれば、銀座の四つ角で自動車電車の行き違う間を、巡査やシグナルの助けを借りずとも自由自在に通過することが出来るにちがいない。しかし人間にはシグナルがあり法律があり道徳があるために鳥獣の敏活さがなくても安心して生・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・親戚の婦人たちが自由自在に泣けるのが不思議な気がした。遺骸を郊外山腹にある先祖代々の墓地に葬った後、なまなましい土饅頭の前に仮の祭壇をしつらえ神官が簡単なのりとをあげた。自分は二歳になる遺児をひざにのせたまま腰をかけてそののりとを聞いていた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・の手は自由自在に伸長されるもので、こんなにまで長くなり得るものだという事が、この「事実」で証明されるというのであった。 いろんな奇抜な方法で雀や鴉を捕る話も面白かった。一例を挙げると、庭へ一面に柿の葉を並べておいて、その上に焼酎に浸した・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・特にあのアラビア人のような名前のついた一団の自由自在に跳躍する翻筋斗の一景などは見るだけで老人を若返らせるようなものである。見るものは芸ではなくして活きる力である。 踊る女の髪の毛のいろいろまちまちなのが当り前だがわれわれ日本人の眼には・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・温厚なる二重瞼と先が少々逆戻りをして根に近づいている鼻とあくまで紅いに健全なる顔色とそして自由自在に運動を縦ままにしている舌と、舌の両脇に流れてくる白き唾とをしばらくは無心に見つめていたが、やがて気の毒なような可愛想のようなまたおかしいよう・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・金銭というものは至極重宝なもので、何へでも自由自在に融通が利く。たとえば今私がここで、相場をして十万円儲けたとすると、その十万円で家屋を立てる事もできるし、書籍を買う事もできるし、または花柳社界を賑わす事もできるし、つまりどんな形にでも変っ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・一家の経済は挙げて夫の自由自在に任せて妻は何事をも知らず、唯夫より授けられたる金を請取り之を日々の用度に費すのみにして、其金は自家の金か、借用したる金か、借用ならば如何ようにして誰れに借りたるや、返済の法は如何ようにするなど、其辺は一切夢中・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」