出典:青空文庫
・・・且また私の知っている限り、所謂超自然的現象には寸毫の信用も置いていない、教養に富んだ新思想家である、その田代君がこんな事を云い出す以上、まさかその妙な伝説と云うのも、荒唐無稽な怪談ではあるまい。――「ほんとうですか。」 私が再こう念・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・二羽の黒い蝶の事、お島婆さんの秘密の事、大きな眼の幻の事――すべてが現代の青年には、荒唐無稽としか思われない事ですが、兼ねてあの婆の怪しい呪力を心得ている泰さんは、さらに疑念を挟む気色もなく、アイスクリイムを薦めながら、片唾を呑んで聞いてく・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・この記事が流布本に載せられていない理由は、恐らくその余りに荒唐無稽に類する所から、こう云う破邪顕正を標榜する書物の性質上、故意の脱漏を利としたからでもあろうか。 予は以下にこの異本第三段を紹介して、聊巴の前に姿を現した、日本の Diab・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・第一に無邪気でなければいけない。荒唐無稽を信じなければいけない。大河内伝次郎は、必ず試合に勝たなければいけない。或る教養深い婦人は、「大谷日出夫という役者は、たのもしくていいわ。あの人が出て来ると、なんだか安心ですの。決して負けることがない・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・ただ現在のビンボー類似の作品はあまりに荒唐無稽な刺激を求め過ぎて遠からず観客の倦怠を来たすおそれがありはしないかと思われる。 普通の現実的映画が散文であるとすれば、漫画は詩であり歌でありうる、むしろそうあるべきものである。今の漫画は俳諧・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・一見どんなに荒唐無稽に見える空想でも現在の可能性の延長として見たときに、それが不可能だという証明はできないという種類のものもずいぶんある。たとえば人間の寿命を百歳以上に延長するとか、男女の性を取り換えるとかいう種類の空想はそうにわかに否定す・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・いに、子供のための読物、或は子供のための芝居、子供のための音楽、そういうものを大人が考えて、大人が自分のセンチメンタリズムでこね上げ、子供に当てはめて、甘いものにしたり、非常に程度の低いものにしたり、荒唐無稽のものにしたりする大きな間違いを・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・「彼が自分のドラマの中に導入した凡ての荒唐無稽さにも拘らず『マクベス』はそれでも中世紀のゴシック風の寺院の如く巨大なる、絶大なる作品である」「人類の全世界史的発達の各々の瞬間は、同様に豊富なる収穫を詩のために与えるものだということの証拠・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」