出典:青空文庫
・・・これは「修理病気に付、禁足申付候様にと屹度、板倉佐渡守兼ねて申渡置候処、自身の計らいにて登城させ候故、かかる凶事出来、七千石断絶に及び候段、言語道断の不届者」という罪状である。 板倉周防守、同式部、同佐渡守、酒井左衛門尉、松平右近将監等・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 小宮山は思わず退った、女はその我にもあらぬ小宮山の天窓から足の爪先まで、じろりと見て、片頬笑をしたから可恐しいや。「おや、おいでなさい、柏屋のお客だね。」 言語道断、先を越されて小宮山はとぼんと致し、「へい。」と言って、目・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・以上のような読み方をするのはアカデミックな言語学者から見れば言語道断な乱暴な所業であるに相違ない。しかし古代の人間は文法も音韻方則も何も知らなかった。明治の日本人がステンショとかオーフルコートとか称したことを考え、昭和の吾々がビルジングとか・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・かれたる特殊の状況に因って吾々の開化が機械的に変化を余儀なくされるためにただ上皮を滑って行き、また滑るまいと思って踏張るために神経衰弱になるとすれば、どうも日本人は気の毒と言わんか憐れと言わんか、誠に言語道断の窮状に陥ったものであります。私・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・重ねてさえ行けば、わるい事が、ひっくり返って、いい事になると思ってる。言語道断だ」「言語道断だ」「そんなものを成功させたら、社会はめちゃくちゃだ。おいそうだろう」「社会はめちゃくちゃだ」「我々が世の中に生活している第一の目的・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・もしあるとすれば答案を調べずに点数をつける乱暴な教員と同じもので、言語道断の不心得であります。ただ吾は時勢の影響を受けているから、しかじかの理想に属するものを好むと云うならばそれでよろしい。吾は個性としてかくかくの理想の下に包含せらるべきも・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・紡績工場の生活がその労働や懲罰の方法、寄宿舎生活の内容において、どんなに非人道なものであったかということは、「日本の紡績女工のひどさは実に言語道断です」と、明治四十年代に、桑田熊蔵工学博士が議会でアッピールして満場水をうったようになった、と・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ましてやこの事件は、単純きわまる残忍さが徹底している点で言語道断な特殊な一例である。 さてここに注目されていることは、不幸なめぐりあわせに陥った被害者が、その家庭で継娘という立場にあったことである。あの記事をよんで、日本中には少くない同・・・ 宮本百合子 「女の手帖」