-
・・・ 大正十二年の秋東京の半を灰にした震災の惨状と、また昭和以降の世態人情とは、わたくしのような東京に生れたものの心に、釈氏のいわゆる諸行無常の感を抱かせるに力のあった事は決して僅少ではない。わたくしは人間の世の未来については何事をも考えた・・・
永井荷風
「西瓜」
-
・・・けれど有難くないの何のと贅沢をいって見たところで、諸行無常老少不定というので鬼が火の車引いて迎えに来りゃ今夜にも是非とも死ななければならないヨ。明日の晩実は柳橋で御馳走になる約束があるのだが一日だけ日延してはくれまいかと願って見たとて鬼の事・・・
正岡子規
「墓」