出典:青空文庫
・・・草田氏をはじめ、その中泉という老耄の画伯と、それから中泉のアトリエに通っている若い研究生たち、また草田の家に出入りしている有象無象、寄ってたかって夫人の画を褒めちぎって、あげくの果は夫人の逆上という事になり、「あたしは天才だ」と口走って家出・・・ 太宰治 「水仙」
・・・ それから後、引きつづき引きつづき有象無象が「悪いお天気でやんすない、お見舞に上りやしただ。と云って来た。その中の或る者は、水を四肩も汲んで行ったり、これから四五日の薪をすっかりこしらえて行ったのもあった。けれ共中には、「悪・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 青葉に射し込もっている光を見ながら、安らかに笑っている栖方の前で、梶は、もうこの青年に重要なことは何に一つ訊けないのだと思った。有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。とにか・・・ 横光利一 「微笑」
・・・画かきさんは芸術をもってこの世を住みよくし浮世の有象無象を神経衰弱より救うつもりである。春の、ホコホコと暖かい心持ちのよい日に、春の海を眺め春の山を望みボケの花の中で茫然として無我の境に無我の詩を造る。画工さんはまず自己を救った。すべての物・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」