出典:青空文庫
・・・へ一度にどっと示威運動の吶声座敷が座敷だけ秋子は先刻逃水「らいふ、おぶ、やまむらとしお」へ特筆大書すべき始末となりしに俊雄もいささか辟易したるが弱きを扶けて強きを挫くと江戸で逢ったる長兵衛殿を応用しおれはおれだと小春お夏を跳ね飛ばし泣けるな・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・私たちはその特筆大書した定価の文字を新聞紙上の広告欄にも、書籍小売店の軒先にも、市中を練り歩く広告夫の背中にまで見つけた。この思い切った宣伝が廉価出版の気勢を添えて、最初の計画ではせいぜい二三万のものだろうと言われていたのが、いよいよ蓋をあ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・あれから二十年、あなたは、いまでは明治大正の文学史に、特筆大書されているくらいの大作家になってしまいました。絢爛の才能とか、あふれる機智、ゆたかな学殖、直截の描写力とか、いまは普通に言われて、文学を知らぬ人たちからも、安易に信頼されているよ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・私は小説というものを間違って考えているのであろうか、と思案にくれて、いや、そうで無いと打ち消してみても、さて、自分に自信をつける特筆大書の想念が浮ばぬ。確乎たる言葉が無いのだ。のどまで出かかっているような気がしながら、なんだか、わからぬ。私・・・ 太宰治 「鴎」
・・・先生とどこで何を食ったというようなことがやたらに特筆大書されているのである。 自分の子供たちのうちにも、古い小さい時分の出来事をその時に食った食物と連想して記憶しているという傾向の著しく見えるのがいる、どうも親爺の遺伝らしいということに・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・世界の民主主義が、近代の仮面をかぶった封建性を打破ったということは、人類史の上での特筆大書されなければならない画期的事件である。人類の文化史はここで旧時代の一巻を終った。私達は、おさえることの出来ない歓喜と期待とをもって、明日の世界へと私達・・・ 宮本百合子 「新世界の富」