出典:青空文庫
・・・何でも彼等が三人ながら、おん教を捨てるとなった時には、天主の何たるかをわきまえない見物の老若男女さえも、ことごとく彼等を憎んだと云う。これは折角の火炙りも何も、見そこなった遺恨だったかも知れない。さらにまた伝うる所によれば、悪魔はその時大歓・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・なるほどそれらの写真を見ると、どこかトックらしい河童が一匹、老若男女の河童の後ろにぼんやりと姿を現わしていました。しかし僕を驚かせたのはトックの幽霊の写真よりもトックの幽霊に関する記事、――ことにトックの幽霊に関する心霊学協会の報告です。僕・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・それに次いで、ほとんど一村の老若男女が、ことごとくその声を聞いたのは、寧ろ自然の道理である。貉の唄は時としては、山から聞えた。時としては、海から聞えた。そうしてまた更に時としては、その山と海との間に散在する、苫屋の屋根の上からさえ聞えた。そ・・・ 芥川竜之介 「貉」
・・・いや、後で世間の評判を聞きますと、その日そこに居合せた老若男女は、大抵皆雲の中に黒竜の天へ昇る姿を見たと申す事でございました。「その後恵印は何かの拍子に、実はあの建札は自分の悪戯だったと申す事を白状してしまいましたが、恵門を始め仲間の法・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・苫家、伏家に灯の影も漏れない夜はさこそ、朝々の煙も細くかの柳を手向けられた墓のごとき屋根の下には、子なき親、夫なき妻、乳のない嬰児、盲目の媼、継母、寄合身上で女ばかりで暮すなど、哀に果敢ない老若男女が、見る夢も覚めた思いも、大方この日が照る・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・――南無大師遍照金剛――次第に声近づき、やがて村の老若男女十四五人、くりかえし唱えつつ来る。村の人一 ええ、まあ、御身たちゃあ何をしとるだ。村の人二 大師様のおつかい姫だ思うで、わざと遠く離れてるだに。村の人三 うしろから拝・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 誰彼の差別も容赦もあらあらしく、老若男女入りみだれて、言い勝ちに、出任せ放題の悪口をわめき散らし、まるで一年中の悪口雑言の限りを、この一晩に尽したかのような騒ぎであった。 如何に罵られても、この夜ばかりは恨みにきかず、立ちどころに・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・叫ぶもの呼ぶもの、笑声嬉々としてここに起これば、歓呼怒罵乱れてかしこにわくというありさまで、売るもの買うもの、老若男女、いずれも忙しそうにおもしろそうにうれしそうに、駆けたり追ったりしている。露店が並んで立ち食いの客を待っている。売っている・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・ふと絵看板を見ると、大きな沼で老若男女が網を曳いているところがかかれていて、ちょっと好奇心のそそられる絵であった。私は立ちどまった。「伯耆国は淀江村の百姓、太郎左衛門が、五十八年間手塩にかけて、――」木戸番は叫ぶ。 伯耆国淀江村。ち・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ぞろぞろと黒い毛布を着た老若男女の列が通る。すべて無言で、せっせと私の眼前を歩いて行く。「鉱山の人たちだね。」私は傍に立っている女中さんに小声で言った。 女中さんは黙って首肯いた。・・・ 太宰治 「佐渡」