出典:青空文庫
・・・されど、実体の両面たる物質と勢力とが構成し、仮現する千差万別・無量無限の形体にいたっては、常住なものはけっしてない。彼らすでに始めがある。かならず終りがなければならぬ。形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 其実体には固より終始もなく生滅もなき筈である、左れど実体の両面たる物質と勢力とが構成し仮現する千差万別・無量無限の個々の形体に至っては、常住なものは決してない、彼等既に始めが有る、必ず終りが無ければならぬ、形成されし者、必ず破壊されね・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 文学の場合でも、たとえば、ある史実を取り扱った戯曲を作るとすれば、作者の個性の差別によって、千差万別ありとあらゆる作品が可能であって、そうして、そのいずれもが傑作でもありうるのである。しかも物理学の場合などとは到底比較にならない多種多・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・というものの批判が非常に複雑困難なものであって、その批判の標準に千差万別があり、従って十人十色の批評者によって十人十色の標準が使用されるから、そこに批判の普遍性に穴があり、そこへ依怙の私と差別の争いが入り込むのであろう。 ある学者甲が見・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・たとえばガラス板を平坦な台の上に置いて上から鉄の球を落として放射線形の割れ目を生ずるという場合に、板の厚さや、球の重量や落下の高さを一定にしてみても、生ずる割れ目の線の数や長さは千差万別であってなかなか一定しない。多数の実験を繰り返せば統計・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・さて吾々の活力が外界の刺戟に反応する方法は刺戟の複雑である以上固より多趣多様千差万別に違ないが、要するに刺戟の来るたびに吾が活力をなるべく制限節約してできるだけ使うまいとする工夫と、また自ら進んで適意の刺戟を求め能うだけの活力を這裏に消耗し・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・しかしその内容を論ずれば千差万別である。実は文学の標榜するところは何と何でその表現し得る題目はいかなる範囲に跨がって、その人を動かす点は幾ヵ条あって、これらが未来の開化に触るるときどこまで押拡げ得るものであるか、いまだ何人も組織的に研究した・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・人間衛生の事なり、活計の事なり、社会の交際、一人の行状、小は食物の調理法より大は外国の交際に至るまで千差万別、無限の事物を僅々数年間の課業をもって教うべきに非ず、学ぶべきに非ず。たとえ、その一部分にてもこれを教えて完全ならしめんとするときは・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・しかしその感銘は、ばらばらであったり、不確かであったり、個人的であったりする場合、そこへ民主的文学のみちびきがのびてきて、読者の千差万別の日々に読みとられた文学的感銘を、一本の民主的方向に貫ぬいて整理することを知らせる。指導は、そういうもの・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・わたしたちは、あらゆる場所で、あらゆる場面で千差万別の形であらわれてくる、反人民的勢力のすべてと戦ってゆかなければならないと信じます。なんぞというと、このごろは恋愛談議がはやっているけれども、恋愛にだってまっさきに問題になるのはこの反人民的・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」