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・・・恐しげに光る沢山の刃物、手術のすみきらない内に、自然と眠りが覚めかかってうめいた太い男の声、それから又あの手を真赤にして玩具をいじる様に、人間の内実をいじって居た髭むじゃな医者の顔、あれこれと、自分が無我夢中になる前五六分の間に見た事聞いた・・・
宮本百合子
「栄蔵の死」
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・・・ 相互に真実な愛もなく、一方は無智による無我夢中、一方は醜劣な獣心の跳梁にまかせての性的交渉が結ばれたとしたら、そして、その百鬼夜行の雰囲気が伝染したとしたら、言葉で云えない惨めさです。とがめ、責める先に暗澹とした心持になります。 ・・・
宮本百合子
「惨めな無我夢中」